事実上の経営者とは?所得税決定処分等取消請求事件

ざっくり言うと…
▼風俗営業を営む7店舗(ピンサロ等)の経営者から所得申告がなされていなかった。風俗営業を営む店舗の経営者であることを理由原告に対し所得税の決定及び重加算税の賦課決定および消費税及び地方消費税の各決定並びにこれらの重加算税の各賦課決定がなされた。

被告(税務署)から推計課税の方法による各課税処分を受けた原告(経営者)が一部期間を除いて経営主体の判断を誤っていること(経営者はA、原告、各店舗の店長と変遷していると主張)、また推計課税の必要性及び合理性は存在しないなどと主張し、それらの取消し等を求めた。

賃貸借契約の名義人、出資の状況、収支の管理、従業員の募集、採用、監督状況などを総合的に検討すれば、経営者は開店以来今日に至るまで一貫して原告であると認めるのが相当。本件全店舗の事業に係る所得は原告に帰属するものと認めるのが相当。原告(経営者)の主張は棄却された。

要旨

風俗営業を営む店舗の経営者であることを理由に、被告から推計の方法による各課税処分を受けた原告が、それらの取消しを求めた抗告訴訟。原告の主張は以下の通り。
①一部期間を除いて、経営主体の判断を誤っている
②経営者であった一部期間についても、経営権の購入代金を必要経費として認めていない。
③推計の必要性及び合理性は存在しない

結論

原告の請求はいずれも棄却。訴訟費用は原告の負担とする。

裁判所の判断

【前提事実】
風俗営業を営む7店舗(ピンクサロン6店舗、カラオケパブ1店舗)は平成○年12月31日当時、○○県□地方O市、C市、A市にて風俗営業を営んでいたが、その経営者から所得申告はなされてなかった。

【処分理由】
 国税通則法68条2項にいう「納税者がその国税の課税標準等又 は税額等の……一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出していなかったとき」に該当する事由が認められたところ被告は、原告が納付すべき所得税額に同項所定の割合を乗じた重加算税額を算出。

【争点】
(1) 本件全店舗の事業に係る所得の帰属先
具体的には
ア 平成○○年8月31日以前の経営者(本件6店舗)は、原告か、Aか。
イ 平成○○年1月1日以降の経営者(□□が開店した平成○○年10月以降は本件全店舗)は、原告か、各店舗の店長か。
(2) 原告が本件6店舗の経営権を購入する代金として、Aに●●●●万円を支払ったか。
(3) 推計課税の必要性の有無
(4) 推計課税の合理性の有無

【被告(税務署)の主張】
 原告の下へは,本件全店舗の売上集計表ないし営業 日報が集積する仕組みとなっている。実際,調査担当者が,臨場した際復元データは,本件全店舗のうち,5店舗の収支データであることは疑う余地がない。かかるデータが、原告の所持するパソコン内から復元されたということは,原告が本件全店舗の収支を管理していたことを如実に示すもの。

 本件全店舗を巡る法律関係の名義は必ずしも統一されたものであるとはいえないが、事務所経営者が行政上必要とされる許可などにおいて他人名義でこれを営む事態があることはまれではなく、この点を経営者が誰であるかの判断において重要視すべきではない。むしろ、誰が経営者であるかを決するには、その事業による計算と責任が誰に帰属しているかを事業の実態に照らして判断する必要があり、本件においては、本件全店舗の事業による売上金はすべて原告に集積される仕組みになっており、その事業による経費もすべて原告から本件全 店舗に流れる仕組みとなっている。

 原告に集積された売上金が、更に第三者へ移動していることや、 原告から各店舗へ流れた経費分の資金につき、他の者がその原資を拠出していることをうかがわせる形跡も全く見られないのであるから、結局、本件全店舗の事業に係る利潤や損失の負担の淵源は、原告にあるとみるのが相当である。 よって、本件全店舗の経営者は原告とみるのが相当。

【原告(ピンサロ経営者)の主張】
 本件全店舗の経営者は現在まで、A、原告、各店舗の店長と変遷している。
 平成○○年8月31日までの本件6店舗の経営者はAであり、原告は、Aに雇用された従業員(マネージャー)であったにすぎない。平成○○年8月31日、本件6店舗の経営者であったAから、店舗の経営権を6000万円で購入。

 原告は,平成○○年9月ころから、1型糖尿病に罹患して、本件全店舗の経営者としての仕事をすることができなくなった。原告は、同年11月ころ、体調が悪くても安定した収入を得られるように、本件6店舗の店長を独立させ、自分は経営のアドバイスなどをして各店舗の店長から一定顧問料を受け取るという内容のロイヤリティーシステムを採用。各店舗においては、同日以降、従来店長をしていた者が、経営者として独立、自己の計算で営業をしており、原告は経営者ではなくなった。原告は以降、本件6店舗の各経営者から顧問料として月10万円を取得していたにすぎない。

 本件全店舗の利益の帰属については、十分な資料が残っておらず、基本的に現金が移動する形態であるため、その帰属主体が特定しにくくなっている。しかし、本件全店舗の経営者は、上記のとおり変遷しており、原告が本件各係争年分すべてを通じて本件全店舗の経営者であったことはなく、これを前提とする本件各処分は違法。

【裁判所の判断】

 事業所得の帰属者は、自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられるところ、ある者がこのような事業者に当たるか否かについては、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべきである。

 本件6店舗(平成○○年10月以降は本件全店舗)に関する賃貸借契約の名義人、出資の状況、収支の管理、従業員の募集、採用、監督状況などを総合的に検討すれば、その経営者は、開店以来今日に至るまで、一貫して原告であると認めるのが相当である。したがって、本件各係争年分、本件各課税期間を通じて、原告が、本件全店舗の経営者であり、本件全店舗の事業に係る所得は、原告に帰属するものと認めるのが相当である。

 原告が本件6店舗の経営権を購入する代金として,Aに6000万円を支 払ったか)についてAは、その証人尋問において、上記領収証の真正なる作成を否定しているところ、6000万円の積算根拠や原資についての原告の説明(原告本人)は、極めて不自然であるばかりか、国税不服審判所における説明とも食い違っている。

 原告は,度重なる調査担当者からの調査協力依頼 にもかかわらず1週間以上応答することなく推移、本件全店舗について会計帳簿を作成せず、各店舗の店長によって日々作成される営業日報、各店舗の経費についての請求書及び領収書、原告が自ら作成していた本件全店舗に係る収支データ等も短期間保管した後処分していたことが明らかである。もっとも復元ソフトの使用により、本件復元データや店舗の営業月報が復元されているが、これらは一部店舗についての一部期間における資料にすぎず、その内容に照らしても、本件全店舗における収支を把握することは不可能というべき。 推計課税の必要性の存在を優に肯認することができる。

コメント

 こちらの判例は、その後しばしば国税不服審判所での採決でも参考にされています。判決文の中でも述べられている通り「事業所得の帰属者は、自己の計算と危険の下で継続的に営利活動を行う事業者であると考えられるところ、ある者がこのような事業者に当たるか否かについては、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべき」つまりは、この店の名義が誰になっているのかというよりも、風俗店の経営者として営業を支配管理し、その収益を自己に帰属させている者が誰なのかということがポイントとなるわけです。

 原告は名義などを理由にそれぞれの時期によって経営者が異なると主張しましたが、復元されたパソコンのデータなどから各店舗の収支状況を把握・管理することを目的として作成された一覧表などが見つかり、原告が実質的な経営者であるとされました。

 実際「所得税法第12条」には実質所得者課税の原則として、「消費税法第13条」には資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定として認められるところです。つまりは届出上の名義人となっているかどうかが、必ずしも事業主かどうかを決めるのではないという事です。例えば賃貸借契約の名義人となっているのかだけでなく、出資状況、収支管理、従業員の募集や採用は誰が行っているのか、などから総合的に判断されるわけです。

 判決文の中でも被告である税務署側が述べている通り「事務所経営者が行政上必要とされる許可などにおいて他人名義でこれを営む事態があること」はよくあること。名義貸しをしているお店へ税務調査が入ることは決してないことではありません。名義を貸すことはこのようなリスクと無縁でないことは理解しておきましょう。

所得税法
(実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

消費税法
(資産の譲渡等又は特定仕入れを行つた者の実質判定)
第十三条 法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行つたものとして、この法律の規定を適用する。
2 法律上特定仕入れを行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その特定仕入れに係る対価の支払をせず、その者以外の者がその特定仕入れに係る対価を支払うべき者である場合には、当該特定仕入れは、当該対価を支払うべき者が行つたものとして、この法律の規定を適用する。

所得税基本通達(法第12条《実質所得者課税の原則》関係)
(事業から生ずる収益を享受する者の判定)
12-2 事業から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その事業を経営していると認められる者(以下12-5までにおいて「事業主」という。)がだれであるかにより判定するものとする

平成16年(行ウ)第58号 所得税決定処分取消請求事件 平成17年11月24日名古屋地方裁判所

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